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コラム

ガキ大将と久しぶりに会った話

「す、すみません。」

その男性はとても動揺しながら、小さな声でそう言った。
大きな体格に似合わず、目を合わせることもなく、やや怯えたような素振りで背を向け足早に歩いていった。

「あれ、美樹本じゃん。」※仮名

男性の少し薄くなった頭部に目をやりながら彼の歩いていく後ろ姿を見て僕は呟いた。
久々に地元に帰ってきて、駅前の牛丼チェーン店の前に差し掛かった時、お店から出てきた男性に軽くぶつかった。というより、軽く触れた。衣服が多少掠った程度の出来事に、彼もそんなに怯えなくていいだろう。

他愛もない出来事だったのに、なぜかその日に美樹本と僕の過去を振り返った。

(これは僅かな出来事に対して深すぎるくらい考えた誰かの独り言である)

 

子供の頃の僕と美樹本

「ごめんなさい。」

小さい体の少年は相対する大きな体の少年に怯えながらそう呟く。
そう、怯えているのは僕だ。

「お前、生意気なんだよ!」

小学生にしては大柄で体格の良い少年は強い口調でそう言い放った。
美樹本は2つ年上で活発で体格の大きいいわゆるジャイアンのような存在で、僕がよく遊んでいた児童館のガキ大将だった。

傍から見てもその体格差で主従関係は丸わかりだっただろう。
もちろん僕だけじゃなく、一緒に遊んでいた友達もみんな美樹本の事を怖がっていた。漫画を読んでたら横取りされるし、遊具も体育館も美樹本が居ればその全てが彼の手に渡る。児童館の先生も手を焼くほどのわんぱく坊主だったのだ。

今でこそ僕は成長期にグングン背が伸びたおかげで身長も高くなったが、幼少期は本当に背も小さくガリガリで気も弱かった僕は「あいつみたいに体が大きかったらなぁ」と羨ましくも思っていた。
あの日が来るまでは____。

 

美樹本の”アレ”がバレた日

その日の児童館も王者は美樹本だった。美樹本が居ない日の児童館はオアシスなのに、あいつが来ると全部全部持っていかれてしまう。力あるものが全て手に入れる不条理で小さな世界だ。…なんだここは地獄か?

しかし、この日ある出来事が起こる。

児童館にある図書スペースにはたくさんの漫画や昆虫図鑑、子供が好きそうな絵本などが並んでいる。いつもはドラえもん等の漫画を読む僕は、その日は友達と昆虫図鑑を読んでいた。カマキリやバッタ、カブトムシなど大好きな昆虫の生態について図鑑を読んで友達と談笑していた時の事だった。

「お前ら何読んでんの?」
うわ、来た。鬼の美樹本が僕らに近寄ってきた。
最悪だ…また読んでいる物を取り上げられると僕らはそう思った。

「図鑑とか難しいから読む気しねぇわ」
そう言って美樹本は図書スペースに置いてある棚の中から、”難しくない”漫画を取り出して読み始めた。

えっ、意外だなって僕が思った次の瞬間に一緒に居た友達が美樹本に向かってこう言った。
「お前ってバカなの?」

「はっ!?バカじゃねぇし!!」
いつもより覇気の無い声で、僕らに向かってそう言った。明らかに狼狽えているのが伝わってきた。
これは好機かと言わんばかりに僕も追従した。
「美樹本ってバカなんだーー!!!」

「うるせぇーーー!!!」と美樹本は叫ぶも声が震えている。
「バーカ!バーカ!バーカ!」僕と友達が日頃の鬱憤を晴らすかのようにバカバカ連呼する。子供とは残酷だ。

「俺バカじゃねぇもん!!」
そういって美樹本は大きな声でわーんわーんと泣き出したのだ。
騒ぎを聞きつけた先生たちも駆けつけてきて、美樹本を泣かせてしまった僕たちはこっぴどく叱られた。

 

発覚後の心境の変化

バカと言われて泣く、子供なら誰だってそうだろう。それ以降僕は美樹本に対して、ある種の恐怖心のようなものが無くなった。
彼が泣き虫だから怖く無い?そうゆうわけでは無い。むしろ前者の「バカ」だった事が分かったからだ。何を持って「バカ」とするかの定義は分からないが、その時の僕達は昆虫図鑑が読めない彼をバカと認定した。

ある日いつものように友達と児童館で遊んでいると、違う小学校に通う同年代の児童達と小さな言い合いが起きた。罵り合いがヒートアップして、一触即発の空気に変わったタイミングで彼らは僕たちにこう言った「俺たちには強力な助っ人が居るから、今から呼んでくるからな!!」
そして彼らは児童館の図書スペースに僕たちを連れていった。するとそこには、美樹本が居た。彼らの強力な助っ人というのは美樹本だったのだ。

すると僕の友達は一言、「なんだ美樹本か。こいつバカだよ」それに対して僕も「そうだな」と同意した。
美樹本は「な、なんだよ!?」と以前の傍若無人な態度は一切無く、この日もまた”難しくない”漫画を読んでいた。もちろんその後、図書スペースに連れていった児童たちの助っ人をする事もなく、僕たちを避けるようにその場を去って行った。

もう僕は美樹本に対して恐怖を感じなくなった。

 

賢い生き方とは

子供の頃の出来事は今後の人生に大きな影響を及ぼすと言うが、まさに僕にとってこれは大きな影響を受ける出来事だった。
「バカ」の定義は大人となった今もあやふやではあるし、おそらく誰に聞いても正解はないだろう。例えば漢字の読み書きが苦手なプロのスポーツ選手やお笑い芸人は「バカ」なのだろうか?
そもそもプロのスポーツ選手になっているだけで、数多くの練習に励み上達するためにたくさんの事を考え、実践し今に至るだろう。お笑い芸人も同じくだ。
漢字の読み書きは大した問題じゃない。

この世で「バカ認定」されるというのはおそらくある集団において、数人が「あいつはバカだ」と評価を下す事で認定されてしまうものだと思う。つまり一つのコミュニティで多数派に「バカ」と言われれば「バカ」なのだ。

「バカ」と認定されて得する事など何もない。だから僕は「バカ」と言われない生き方を歩もうと思った。
よく考え、発言と行動をする。人の動きを見て、その場の空気を読む。言葉選びと伝え方のニュアンスを学ぶ。
とにかく思考を止めずに生きていく事が、気も小さく弱っちい自分がこの世を賢く生きる方法だと、幼少期のあの経験が僕を生かしてくれている。

他人にバカと認定されるとどんな巨大な力を持った存在も全てを失う。逆に他人に賢いと思わせる事ができたらこの世のあらゆる事は思い通りになる。
そんな単純で嫌になってしまう世界で僕は生きているのだ。

歳を重ねて

美樹本も今はもう30代後半くらいか。だいぶ疲れてそうで覇気を感じなかったよ。
あれからどうしてた?大人になっていく過程で、学校や職場で「バカ認定」されたりしたのかな?
だとしたら肩身が狭い思いをしていただろうな。

弱っちい子供の頃の僕なら「ざまぁみろ」と言うのだろうか。
きっと彼と会う事はもう無いだろうけど、お元気で。

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